第1章

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大学を卒業して、就職したのが、N商事という平凡な商社だった。 可もなく不可もなく、大して名の知れていない企業だ。 就職先すら決まらない学生が多い中ではラッキーだったかもしれないが、今の状況を見れば、職が見つからなくても同じであったような気がする。 石田課長。奴が全ての元凶だ。 なかなか仕事を覚えられない俺に目を付け、徹底的にいびった。 わざと使わない書類の整理を押し付け、なにか提出する際には、無理やりにでも襤褸を探して責めた。 周りに助けてくれる者などいない。ただ笑われるだけだ。 毎日思い悩み、認められたい一心で昼夜問わず仕事に励んだが、空回りするだけで、誰も評価などしてくれない。 六ヶ月。 たった半年で、もう耐えきれなくなった。 俺は、ついに辞表を提出した。 そのときの、課長の驚愕の表情は、今でも忘れられない。 やりすぎた、とでも言いたげな顔が爽快だった。 今は、生活保護に頼ってボロアパートでボーッとしている毎日である。 余裕がないから、働いているときにはできた少しの贅沢など論外だ。 アルバイトでも始めようかと思ったが、以前のトラウマが邪魔をしてどうしても働くことができない。 思い返して、改めて呟く。 「俺って、クズだよな」 実家の両親は、息子が今も元気に働いていると思っている。 無職になった、なんて言えるはずがない。 大したこともできずに生きてきて、これ以上の親不孝をしたら罰が当たりそうだ。 今、同年代の人間でも、広いマンションに住み、恋人の朝食を食べて、希望を持ちながら出勤する者がいる。 その反面、俺は買い貯めたカップ麺を取り出すのも億劫で、洗面台の前で棒立ちになっている。 ひどい格差だ。
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