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大学を卒業して、就職したのが、N商事という平凡な商社だった。
可もなく不可もなく、大して名の知れていない企業だ。
就職先すら決まらない学生が多い中ではラッキーだったかもしれないが、今の状況を見れば、職が見つからなくても同じであったような気がする。
石田課長。奴が全ての元凶だ。
なかなか仕事を覚えられない俺に目を付け、徹底的にいびった。
わざと使わない書類の整理を押し付け、なにか提出する際には、無理やりにでも襤褸を探して責めた。
周りに助けてくれる者などいない。ただ笑われるだけだ。
毎日思い悩み、認められたい一心で昼夜問わず仕事に励んだが、空回りするだけで、誰も評価などしてくれない。
六ヶ月。
たった半年で、もう耐えきれなくなった。
俺は、ついに辞表を提出した。
そのときの、課長の驚愕の表情は、今でも忘れられない。
やりすぎた、とでも言いたげな顔が爽快だった。
今は、生活保護に頼ってボロアパートでボーッとしている毎日である。
余裕がないから、働いているときにはできた少しの贅沢など論外だ。
アルバイトでも始めようかと思ったが、以前のトラウマが邪魔をしてどうしても働くことができない。
思い返して、改めて呟く。
「俺って、クズだよな」
実家の両親は、息子が今も元気に働いていると思っている。
無職になった、なんて言えるはずがない。
大したこともできずに生きてきて、これ以上の親不孝をしたら罰が当たりそうだ。
今、同年代の人間でも、広いマンションに住み、恋人の朝食を食べて、希望を持ちながら出勤する者がいる。
その反面、俺は買い貯めたカップ麺を取り出すのも億劫で、洗面台の前で棒立ちになっている。
ひどい格差だ。
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