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ななな、なんだってぇぇぇ!?
す、す、涼香の好きな人だとぉぉぉ!?
不意に発せられた九美の言葉により、俺の全神経は耳へと集中し、その会話を一語一句逃さまいと耳を象のように大きくする。
と言っても本当に象のように大きくなるワケじゃないんだけどな。
「な、何よいきなり……」
「物事はいつも突然の連続ですわよ。この会話が出てくるのも何ら不自然ではないかと思いますが?」
「そういう意味じゃなくて、どうしてこの場でそういう話を聞いてくるのかって事!」
途端に慌て始めた涼香。
それを見た俺の胸がチクりと痛む。
涼香は実の兄に好意を寄せていた。
今はどう思っているのかは解らないが、九美の質問に対して焦っているように見える……。
まさか……誰か好きな奴がいるんじゃ……。
いや、でも待て。
涼香がその辺の男を好きになるか?
以前に告白されていた事はあったけど、それ以来は音沙汰無かったハズだ。
ただ単に俺が知らないだけかもしれないけど、これは間違いないと思う。
いやいや、更に待てよ……。
何も一般人に限った話じゃない……よな……。
ふと頭に思い浮かんだのはゴエティアのメンバーだった。
凱斗、龍、勇、洋祐。
パッと思い浮かんだだけでも、同世代の男子は数名いる。
しかも、どれもが男らしい一面を持っている奴らばかりだ……。
まさか……ゴエティアの中で好きな人が……!?
「いないわよ……そんな人」
九美の質問が涼香に届き、後ろで俺が悶々としている時間、約10秒。
俺の不安は一瞬にして取り除かれたのだった。
そこからヘルグリムに着くまでは特に何も起きず、俺達は何事もなくヘルグリムに着いた。
「では私はこれで」
九美は軽くお辞儀をした後に、俺と涼香とは部屋の方向が違う為、静かに自分の部屋へと向かっていった。
残された俺と涼香の間には、謎の無言空間が漂っていた。
正直、何を話していいのかわからない……。
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