第一章 恋心

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ななな、なんだってぇぇぇ!? す、す、涼香の好きな人だとぉぉぉ!? 不意に発せられた九美の言葉により、俺の全神経は耳へと集中し、その会話を一語一句逃さまいと耳を象のように大きくする。 と言っても本当に象のように大きくなるワケじゃないんだけどな。 「な、何よいきなり……」 「物事はいつも突然の連続ですわよ。この会話が出てくるのも何ら不自然ではないかと思いますが?」 「そういう意味じゃなくて、どうしてこの場でそういう話を聞いてくるのかって事!」 途端に慌て始めた涼香。 それを見た俺の胸がチクりと痛む。 涼香は実の兄に好意を寄せていた。 今はどう思っているのかは解らないが、九美の質問に対して焦っているように見える……。 まさか……誰か好きな奴がいるんじゃ……。 いや、でも待て。 涼香がその辺の男を好きになるか? 以前に告白されていた事はあったけど、それ以来は音沙汰無かったハズだ。 ただ単に俺が知らないだけかもしれないけど、これは間違いないと思う。 いやいや、更に待てよ……。 何も一般人に限った話じゃない……よな……。 ふと頭に思い浮かんだのはゴエティアのメンバーだった。 凱斗、龍、勇、洋祐。 パッと思い浮かんだだけでも、同世代の男子は数名いる。 しかも、どれもが男らしい一面を持っている奴らばかりだ……。 まさか……ゴエティアの中で好きな人が……!? 「いないわよ……そんな人」 九美の質問が涼香に届き、後ろで俺が悶々としている時間、約10秒。 俺の不安は一瞬にして取り除かれたのだった。 そこからヘルグリムに着くまでは特に何も起きず、俺達は何事もなくヘルグリムに着いた。 「では私はこれで」 九美は軽くお辞儀をした後に、俺と涼香とは部屋の方向が違う為、静かに自分の部屋へと向かっていった。 残された俺と涼香の間には、謎の無言空間が漂っていた。 正直、何を話していいのかわからない……。
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