第一章 恋心

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「じゃあ私もこれで……」 と、俺がどうしようか考えていると、まるで俺を置いていくかのように涼香が一人で歩き出した。 部屋の場所は隣同士なハズなのに……。 俺と涼香の距離が数メートル開いた後、結局は自分の部屋に向かう事しかないので、俺は涼香の後ろについて行く形で歩き出す。 既に歩き慣れた廊下だというのに、何故か今に限ってめちゃくちゃ長く感じる。 「……ん?」 涼香の後ろを歩いて気付いた。 「なぁ涼香」 「……何?」 俺が涼香に声を掛けると、涼香は動かしていた足を止めて、顔だけをこちらに向かせた。 「髪……切ったのか?」 そう、涼香の姿を後ろから見ることで気づいた事。 涼香の髪が少し短くなったような気がした。 まぁ気がしただけで、本当かどうかは解らないんだが……。 「切ったけど……」 「あ、やっぱり」 「それがどうかしたの?」 聞かれて返答に迷ったが―― 「いや、聞いてみただけなんだ」 「……ふぅん」 特に会話が広がる事もなく、また再び歩き始めた。 「じゃ。またね」 部屋の前に着くと同時に涼香は振り返って俺に言葉を掛けてきたが、俺の返答を待たずして自室に入っていった。その後は俺も自室に入り、荷物を置いた後に風呂に入った。 「ふぅ……」 湯船に浸かり、俺の口からは自然とそんな声が漏れる。 白い湯気が蔓延した浴場は、一人で使うにはあまりにも大きい。 洗い場は大人三人が横並びでも悠々に使える程幅があり、浴場は下手したら10人ぐらいなら一度に入れそうなぐらい広い。 そんな大きな浴場を一人で使っている。 しかもそれが沢山あるヘルグリムの部屋に設置されている。 相変わらず大きすぎる規模だとは思うが、伊集院 九美という人物に会ってからは、その規模にも慣れていた。 何せ九美のやる事為す事全てが特大級の規模だから、他の物が全て小さく見えてしまう。 例えるなら、九美は地球で他は蟻ぐらいか? それは言いすぎか。 などと、中身の無い事を頭の中に浮かばせては消えていき、俺はボーッと風呂場の天井を見つめた。 ここ最近は本当に沢山の事があった。 涼香と出会い、祖力に目覚め、ソロモン72柱と死闘を繰り広げ、ゴエティアに入団して……。 たった数か月の出来事のハズなのに、もう何年も過ごしている感覚すら味わう。
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