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「えと……それって……?」
「……言葉の通りよ」
依然と正面を向きながら歩いている涼香は俺に声をかけた。
その言葉を聞いたと同時に俺の足は止まってしまっていた。
「……? 何止まってるのよ……」
少し前にいる涼香が振り向きかえって俺を視界に捉える。
対する俺は視線を地面に落としてしまっていた。
待て待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇぇい!!
え!? なんで!?
なんで涼香が俺の好きな人を聞いてくるの!?
本当になんでぇ!?
質問の意味があまりに直球すぎたためか、俺の額からは嫌な汗が滝のように流れてくる。
背中の汗もシャツを掴んで離さず、俺は大変息苦しい状態に陥っていた。
「えと……何で……?」
何故涼香は俺の好きな人なんて聞いてきたんだ?
俺に興味があるとか?
いや、それはないな。涼香が好きなのは涼香の兄だ。
俺はその代わりとして見られていたんだ。
涼香の視線の先には俺じゃなく、涼香の兄がいたんだ。
でもそれは俺に悪い事だからって謝ってくれたし、これからはそうならないだろうと思っていた。
じゃあこの言葉の意図は何だ?
「私……お兄ちゃんが好きだって言ったでしょ?……だったら、アンタにもそういう人がいるんじゃないのかなって思っただけ」
そう言って涼香は俺の目をジッと見つめてきた。
まるで嘘を見破るかのような迫力のある眼光を前に俺はタジタジになり、重くなった口を精一杯動かした。
「い、いないよ……」
でも言えなかった。
いや、言えるハズがなかった。
俺には涼香に気持ちを伝える資格がない。
自分勝手に生きてきた自分に対して、涼香は気を遣ってくれたんだ。
そんな俺が涼香の生活を混乱に導くような事が出来るハズがないんだ。
「…………そう」
俺の言葉を耳にした涼香はサッと前に向き直り、学校への道のりを歩き出した。
その後ろで俺は心臓を激しく動かし、流れ出た汗を制服の袖で強引に拭き取った。
少し胸が痛かった……。
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