第一章 恋心

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「……」 「……」 二人の視線が交わるも、特に言葉を交わす事はなく、ただ無言の間が過ぎていくだけで……。 先生の質問に答えた涼香は視線を俺から外し、静かに席に着いた。 そういう俺も涼香の動向を見終えた後に視線を黒板に移すのだった。 「ダメですわね、今のだと」 「なっ!?」 だが涼香の反対側にいた九美は納得がいかなかったみたいで、俺の耳元で小さくそう言った。 その言葉に過敏に反応した俺は涼香に聞かれまいと、九美の口を押さえようと慌てながら右手を伸ばしたが、九美は難なく手首を握ってくる事でそれを阻止した。 「くくく、九美!? 聞かれたらどうするんだよ!」 「大丈夫ですわよ。涼香は聞こえていませんわ……恐らく」 「なんで不安そうに言うんだよ! それなら最初から黙っててくれよ!」 九美の言葉であたふたしている俺を見る九美は、何故か笑顔で凄く楽しそうだ……。 い、意地悪すぎるだろ……お嬢様め……。 お嬢様だったら何でもしていいってワケじゃないんだぞ!? そんな時だった。 「今の何がダメだったの?」 涼香が声を掛けてきた……。 それに、しっかり聞こえてるじゃねーか……。 っていうか、ヤバイヤバイヤバイ!! この状況をどうやり過ごせば!? いや、変な言い訳をついてもバレた時の方が怖い!! 今の俺の脳内会議では、近年稀に見る大きな議題として取り上げられていた。 素直に気持ちを言うべきか……。 何か理由をつけて回避を試みるのか……。 それとも他の手を探すのか……。 さぁどうする!? どうする、俺!! 「いえ。先程の涼香の訳し方には、少し無理がありましたわ。それが少し気になって」 「うっ……やっぱり九美から見たら変だった?」 俺が脳内会議で頭を抱えている時、災いの元である九美が、救いの手を差し伸べてくれた。 九美……悪かったな、全てをお前のせいにしてしまって……。 ん? そもそも九美が発言しなければ起こらなかった問題では? ……。 前言撤回! 九美、良くも悪くもやってないぞ!? 君は当たり前の事をしたまでだ!! そんな慌ただしい授業の時間は過ぎていき、学校で唯一無二の存在である昼休みが訪れた。
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