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世界の隅にひっそりと、その美しい村はあった。
村の中心には湖があり、山脈より削られて流れてきた氷河の粉が交じっているため、その湖水は神秘的な色を発していた。
ミルクの中で水色の絵具を溶いたような乳青色。
初夏になればその湖畔を囲むかのように、瑠璃色のルピナスが咲き乱れる。
涼しげな葉から空に向かって突き出た存在感のある花芽が、小さい蝶形型の花を下方から上方へ、螺旋を描くように咲かせていく。
村の人々にとって、湖は癒しであった。
ルピナスが咲き誇る時季は、更に美しい。
晴天率の高いこの村の空気は澄んでいるので、星空観察にも適していた。
夜になれば、湖の上には満天の星空が顔を出す。
その光景はまるで銀河遊泳をしているかのよう……だが、この村の人々は、その星空を見上げる事はない。
村には古い言い伝えがあった。
『村が闇に包まれる時、悪魔がやって来る』と。
アン・ダインは、手にしたマグカップをサイドテーブルに置くと、溜息を吐いた。
ベッドの横に座り、足をぶらぶらさせ、両手を付いて、天井を見上げる。
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