ユリシスの村

3/11
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
天井には空の写真が貼ってあった。アンの父親が撮った写真だ。 「まだ起きてたの?」 部屋の扉を少し開き、母親が顔を出す。ベッド脇、出窓のカーテンが揺らめくのを見つけた途端、形相を変えて部屋に押し入って来た。 最初に出窓の外枠のシャッターを、次に二重構造のガラス窓を、きっちりと鍵を何重にも掛けたのを確認して、最後に分厚いカーテンを閉めた。 「何度も言ってるでしょう。夜に窓を開けたら、悪魔がアンを連れて行ってしまうわよって」 母親は呆れた顔をして、「早く寝なさい」と明かりを消し、部屋を出て行った。アンは母親におやすみを言うと、仕方なくベッドに潜り込んだ。 この村の夜は長い。 ここの所、寝つきが悪かった。眠ろうと目を瞑っても、夜が深くなるに連れ、頭が冴え渡ってくる。 眠る前のホットミルクもうまく作用しない。おかげで、今日も授業中に居眠りをし、先生にみんなの前で注意され、恥ずかしい思いをした。 甘い香りが鼻を掠め、アンは瞼を開いた。 静かな部屋の中で、微かな羽音がした。 暗闇の中で青白く光るそれは、天井を飛び回っていた。 藍錆色に光る羽根を持った蝶だった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!