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アンにはそれがとても嬉しくて、出来るならば、ずっと彼女とこうして会いたいと思った。
だから、彼女の事は誰にも話さなかった。みんなが寝静まった頃、家を抜け出して、湖にやって来る。それがアンの日課になっていた。
「青い蝶はね、幸せを運んでくれるんですって。それって、本当ね。だって私、アンに出会えてすごく幸せよ。それとね、もう1つ、青い蝶には秘密があるの___」
ユリシスはそっと秘密も教えてくれた。
その夜は大きな満月が、ぽっかりと空に浮かんでいた。
アンが湖に着くと、ユリシスは水辺にしゃがみ、両手を水中に浸していた。
「月が綺麗だね」と彼女に話掛けると、彼女は振り向いて微笑んだ。
月灯りが水面に注ぎ、キラキラと煌めいた。乳青色の湖水がぼんやりと浮かび上がって見えた。
「私には、少し明るすぎるわ。今日は蝶も元気がないみたい」
確かに、ユリシスの傍らを舞う蝶は、輝きが乏しかった。いつもは鼻腔に広がる強い香りも、今日は仄かに辺りに漂うだけだ。
「アン、今夜は____」
アンに向けられた朗らかな表情が、一瞬にして強張った。
ユリシスは目を見開いて、ルピナスの先に佇む森を見据えていた。
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