『にんぎょひめ』

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『傍にいられるだけで、幸せなんです』 陸に上がる前に、末姫が魔女に言った言葉だ。 何も望まない。 ただ、傍にいたかった。 「傍にいたって、別の女に心を動かされる王子を見るのは、辛かったろうに」 魔女はそっと、手のひらに乗せた泡を撫でる。 それは幼い娘の頭を撫でてやるような、優しい手付きだった。 「足を上手く使えない自分に、言葉を話せない自分に優しくしてくれた?だから何だってんだい」 王子の見初めた姫もまた、素姓の知らぬ人魚姫に優しくしてくれたのだと云う。 「全く。オメデタイ奴らだよ、どいいつもこいつも」 苦笑して、その泡の魂にまじないの言葉を呟く。 たちまち深海にまばゆい光が満ち溢れ、人魚姫の泡はゆっくりと浮上して行った。 「さあ、お行き。お前の真の願いを叶えてやろう」 その言葉と同時に魔女は片手を大きく振ると、きらめく光が泡を包み、速度を上げて海の向こうに飛び去って行った。 「さて……これで何度目だろうね」 魔女がぽつりと呟いた。
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