序章

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直ぐに可愛らしくも聞こえるような声で言葉を返され、初めて確りと聞くその″声″に、罪人達はビクリとします。 ″聞き覚え″のある響き、もう2度と聞けるはずのその声に、恐怖や怒りを越えて、驚いていました。 「―――驚かないでくださいよ、―――」 そして、代理″領主″は身に付けていた仮面を外し、その顔に4人全員が悲鳴をあげました。 「―――ケロイドにまみれて、そんなに悲鳴をあげるほど醜いですが、死ぬ(旅立ちの)前に憎らしい顔に何か仰ってくださいな」 最初は悲鳴を口の端をニイッと上げながら聞いていたましたが、4人の罪人があげた悲鳴は自分のケロイドに対するものではないのが、代理領主には何となくわかりました。 ―――ああでも、でも、今更どうでもいい。 この4人の罪状は確りと調べあげていて、残念ながらどうやっても″死罪″は免れないものでした。 代理領主である貴族の女性は、愛用の、敬愛する祖父がくれた銀色の仮面を、再び身に付けます。 「それでは、″さようなら″です、伯母様がた」 パチンと指を鳴らしたなら、部屋の隅の闇の中から、黒い(たすき)な様な物が出てきて、罪人達の視界を奪います。 罪人達は様々な言葉を口にしますが、仮面を身に付けた領主の心にはもう届きません。 執事が大きめな1つの杯―――毒杯を、盆に載せてやって来て、頭を下げて恭しく差し出し、仮面の領主は、それを手に取り、歳の若い伯母の順から口に流し込みます。 軽く暴れたり、五月蝿いことを言われたような気もしましたが、軽く心が麻痺したような気分でもあったので、容赦なく流し込みました。 「ロック、エリファス、後をお願いします」 最後の1人に流し込んだ後、″後片付け″を、執事と親友に頼んで、領主は謁見の部屋を後にしようとした時、その瞬間、窓の外で雷が轟きました。 「季節外れの、遠雷か」 唯一仮面から出ている唇から、そんな言葉を漏らしたなら、ふと、謁見の部屋の入口の扉に気を取られます。 ―――そこに透ける身体をもった、幼いこどもが扉を背にして、泣いていました。 ″ごめんなさい、旅人さん″ その声がはっきり頭の中で響いて、領主は仮面の中で、固く目を閉じました。
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