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いつの間にか寝ていたのだろう。ここはどこだ?暗い。寒い。怖い。
〝あれ〟がないともう生きていけない。体中、ミミズが這いずり回っている。首には蛇が毒牙を剥き出しにして、こちらを睨んでいた。
そうだ、火李奈だ。
火李奈はどこへ行った?
暴れると拘束具が肉にめり込み皮を毟った。
こんな所にいる時間なんてないのに。
幹明は焦っていた。
火李奈に置いて行かれる。こんな所、現実ではない。
現実は…今……。
「どうしたの?お兄様?」
観覧車はもうじき頂上に登りつめていた。ここからだと地上にいる人がゴミのように見える。ハハっと幹明は笑った。少し上手く笑えていないのを自覚していた。
「何でもない。時々、怖い夢を見るんだ」
火李奈が幹明の膝に手をやった。
「夢は現実と反対の意味を持つ訳ではないわ。現実の反語は理想よ」
甘く囁く火李奈を強引に抱き締める。冷たい体。美しいドレス。今日は特段と目の映えるフリルとリボンの付いた黒いドレス姿で火李奈はデートに来ていた。
幹明はアクセサリーをジャラジャラと付け、自分の体にフィットする赤と金の軽いコート姿で決めている。
バカップルもいいところだ。それでも幹明も火李奈も幸せだった。
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