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「お嬢様の年齢は未知の域だが、実は私があの方をお嬢様呼ばわりしてもいいのか、分かっていないのだ」
幸世の黒いブーツと幹明のスポーツシューズがコツコツと館の中、響き渡らせる。
「私は30年は生きてきた。しかし、姿は変わらないのは幹明、お前の目で確認済みだろう。そんな私でさえ手駒に取るお方だ。お前なんかより、ずっと多くのことを経験してきているぞ」
小声でもちろん、辛いこともな、と幸世が付け足す。
幹明は考えあぐねいた。
「俺以外、皆、化物なのか?それとも俺が化物なのか?」
幹明の複雑そうな顔を見て、幸世はいつものように幹明の頭をポンポンと軽く叩いた。
「この世にはどちらかしかいない。化物の皮を被った人間か人間の皮を被った化物か。お前は私が守る」
「姉さん、あんた、本物の姉さんなのか?」
「ただの数年間世話になった居候だ」
幸世は幹明から顔を背け、冷たく言い放った。
それだけで、幹明の心は深く痛み、いっそ泣いてしまおうかと思ったが、幸世の暖かみを信じ切れない自分の方が許せなくなり、歯を食いしばって、両手に汗が滲むまで手を握り締めた。
頼れる人がいないと生きていけない自分が辛かった。
だから、〝あれ〟をやったのか?
たまに頭痛がする。世界が狂い出す。それでも、夢から醒めない。
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