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館の左、丁度日光の当たらない南西の方角に別館として食堂はあった。館のホールの時計が大きな音で19時を知らせる。
幹明は、割り当てられた部屋で眠っていた。アルコールのようなものが体中で暴れ、立ち上がろうにも無理があった。
部屋の扉が開く。
「姉さん、まだ放っておいてくれ」
返答がない。
「眠たいんだ」
何者かが近付いて来る。
「が、火李奈?」
「お兄様、一番好きな花を教えて。この部屋に飾るから」
か細く甘いウィスパーボイスが耳元で鳴り響いた。次はカラビアンカの香りが鼻をくすぐる。
幹明は花のことより、気になることがあった。
「何で俺、ここにいていいんだ?それに君は何歳なんだ?見た目は少女にしか見えない」
火李奈が頬を寄せる。
「お兄様は私のお兄様でいいじゃない。それより好きな花は?」
幹明は困惑を抱え、自分より小さい火李奈の体を抱きとめた。あまりもの華奢で無垢な姿にアルコールよりも熱いものが頭に登る。
咄嗟に青薔薇とキザな台詞を吐いた。
「神の祝福」
火李奈が悲しげに呟く。
「花言葉、奇跡、神の祝福。お兄様には似つかわしいわ」
これを、と握られた手にケースに入れられた小さな青薔薇があった。
「お兄様、私を呪いなさい」
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