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生まれ持った才能のある者とない者に別れる。才能は努力の結果だと言い張る輩は偽善教師とでも例えようか。何をしたって駄目な人間は駄目なのだ。
幹明は才能を持ち合わせていなかった。更に言うと馬鹿にされることに長けていた。イジメのターゲットに都合の良い人間として学校では悪ガキに絡まれ、幹明の将来は暗い絶望しか残っていないかのようだった。不登校になるのも時間の問題だろうと周りは密かに囁いた。
幹明の両親は共働きで父が一般的なサラリーマン、母はテレフォンガールをやっていた。幹明は今でも母の優しい声を思い出す。女性の柔らかな声は傷付いた心を慰め、痛みを悲しみに変えて美しい花のように包み込み、愛だけを残したまま涙と引き換えに消えてしまう。
儚いのが、生き物の原理なのだ。
教科書を汚れた掃除用のバケツの水の中に突っ込まれた時、10歳の幹明は泣きながら、「母さん…」と壊れたように呟き続け、それが余計同級生の笑いのネタとして、面白がられた。
幹明がイジメっ子に刃向かうことはとうとう一度もなかった。
幸世はどんな声でも出せた。幹明の望む声で喋り、幹明の望む姿で現れ、幹明を愛しげな目で見つめ、理想的な姉を演じる得体の知れない化物だった。それでも、幹明が単純に両親の死を受け入れ、化物と一緒に生活するのに身を甘んじるために、もう学校に行かなくてもいいというのは大きかった。両親の死さえも幹明の頭の中ではぐじゃぐじゃの絵本の変な1ページに過ぎなかった。
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