第1章

31/38
前へ
/82ページ
次へ
学校に通う道を進む足は重かった。重力に反発しようとして、失敗しているかのように足が動かない。早く行かないと怒られる。それが先生だけなら、まだ余裕はあった。問題なのはあいつらだ。幹明を屋上に呼び出しては罵倒と暴力を浴びせた。 学校を休めば、今度は父が悪意を剥き出しにするだろう。 消えたい、この世から消えたい。 空を仰ぎ見る。真っ青な空だった。 突如、車道で車の急ブレーキが鼓膜を破らんばかりに響いた。 道を横断しようとしていた白猫が内臓と骨を露出させて、美しい顔のまま、死んでいた。 「私は人ではない」 「知ってたよ」 「神でも邪神でも人間でも動物でも天使でも悪魔でもない」 「分かってた」 「お兄様、本当は自分がどうなっているかご存知でしょ?何故、帰らないの?」 幹明は火李奈を抱きしめ、破顔させた。 「君と別れたくない」 火李奈は憐れむ瞳で幹明を見つめている。それでも、幹明の腕から離れた。 「貴方は1人でも生きていける」 幹明は泣き崩れたまま、火李奈の足元で、大理石の床を叩いた。 「そんな訳ねえじゃねえか!だろ?姉さん」 幸世が幹明を軽蔑した。 「みっともないぞ、幹明」 幹明はしばらく泣いていた。そうでもしないと何もかもが怖ろしかった。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加