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「人肉を食べるのか?」
ポツリと幹明が呟く。
火李奈は〝サッシャー〟が食の味を歪ませていると答えた。
「〝サッシャー〟は人肉しか受け付けないの。ただし、植物は大切にするわ」
火李奈がチラリと幹明に目をやる。
「覚えない?お兄様」
考えようとすれば、真っ白になるのはいつものことだ。幹明は視線を落とした。
「俺は何も分かっちゃいねえ」
そもそも、と言葉を続ける。
「何でいきなり人を殺したんだ?」
火李奈は不思議そうな顔をした。
「鈍感なのね。気付いていらっしゃると思ってましたのに」
火李奈が警部補の首を切り落とす。やはり、魚のようだ。
「私の主食は人肉。毎日、人をさらっては、〝サッシャー〟に解体させ肉料理を作らせているのよ」
それじゃあ、と幹明は言葉を震わせた。
「俺が君と会って食事をした時、あれは吉崎か犬羅ってヤツの肉だったのか?」
幹明は口元を抑えた。
「俺は人間の肉を食べたのか?」
今度は幹明が戻す番だった。皿の上に吐物が溢れる。
「道徳的には邪道よ。けど、生きていくためには、汚い手を使うこともあるの。私の場合、私という自我が壊れるのを防ぐため、必要だった」
火李奈が鋭い八重歯でもう別世界を彷徨っているだろう鳴海の頬の肉を引き裂き、幹明に迫った。
「口直しが必要ね」
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