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晩餐会に幸世は参加しなかった。お先に失礼する、と言った言葉から人肉で脳をやられるのを危惧している様子が伺えた。誰も止めなかった。幹明も火李奈ももう手遅れだが、幸世だけは正常なままでいても悪いことはない。
「2人っきりだな」
血塗られた口からそんな軽はずみな言葉が出て来る。
火李奈は鳴海純一のビーフシチューを一口啜った。幹明が食べているのは鳥足のような鳴海の腕肉だ。筋トレしていたのだろう。美味い。
「お兄様、何がお望み?」
太陽も月も食堂に光を当てない。呪われた場所だ。それでも幹明は幸せだった。人とは不条理なもので、負に繋がることを自ら進んで手にする。そこに快感があるからだ。
「君と永遠を共にしたい」
幹明の日本人らしい茶色の瞳が異色な黄金の瞳を覗き込んでしばらく経った。
「そんなこと私が許さないわ」
火李奈が舌舐めずりし、ふと笑う。
「私は何に見える?」
「人形のように綺麗だ」
「呪いなさい。それは盲目なだけで、本当はただのなり染めの姿。貴方が貴方を大切にするなら、今直ぐにでも起きなくてはならないわ」
火李奈が目を細める。
「どんなに辛くてもね」
幹明は火李奈の肩に触れた。それからゆっくり這わし、手に触れる。返り血を浴びた白いドレスから冷たい体温に変わっても、怖気付くことはなかった。
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