第1章

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10歳を越え、高校受験を控えた頃、最もよく自分をからかった相手のことを幹明は友達だと思っていた。いつも授業中爆睡するギャグ漫画の主人公のような親友を〝ウネ〟と呼んでいた。少なくとも知識の低い幹明の主観的視点からは本名、有根元英治(ウネモトヒデハル)はいつも正義の味方だった。ウネの真似のつもりで授業中わざと爆睡して、先生の意地悪な視界に入っては起こされて、解けるはずもない問題を突き付けられた。もちろん、ウネなら、答えられることは言うまでもない。この世は幹明に徹底的に不利にできているかのようだった。 「幹明ー!」 ウネが机の上に座って長い足をぶら下げながら、幹明を呼ぶ。 周りの生徒がせせら笑いを堪えてまだ黒い髪で地味な性格をした幹明に視線を集中させた。 「山澄と小河原と俺のタラコスパゲッティパンを買って来いよぉ~」 幹明はしつけされた犬のように目を凝らして頷いた。深く頭を垂れて了解致しました、と呟く。ちょっとした冗談のつもりだったが、ウネは鉛筆を幹明の頭に向けて投げた。 「お前、喧嘩売ってんの?俺、もっと面白いもんでないと買わないよ?」 脳をフル回転させて状況を理解した。幹明は泣きながら、家に帰った。
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