第2章

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サウシャーロンは日本人とドイツ人のハーフだった。彫りの深い顔立ちにいつも微笑みをたたえた慈悲深い男だ。彼を敬う人はこう語る。彼にできないことはないし、彼は人というより、神に近い存在だと。 サウシャーロンの手から鳩が飛び出す。何もない空間から、金貨が指に弾かれて手の甲に乗った。 「さて、金貨は表?裏?どちらかな?」 彼は訛りをほぼ消したインストネーションで子供に聞いた。 「表?」 サウシャーロンがにやりと笑う。 「何で分かったのかな?」 「その金貨、表しか出ないって兄ちゃん、言ってた」 正解はね、と彼は勿体ぶった。 「裏でした!」 金貨は確かに聖母マリアではなく蓮華の花が描かれていた。何度も金貨を当てるゲームが続く。全てサウシャーロンが勝ち続ける。 泣きそうな子供にサウシャーロンが甘い香りの花を出して、食べてみせた。途端に子供は笑い出す。 「魔術師さん、それ美味しいの?」 「君にはオススメできないなあ」 サウシャーロンが指を突き立てた。 「うちの猫がよくやるんです」 子供が面白がって騒いだ。 「猫が花を食べるなんて変だよ!」 子供の帰り際を見計らって、サウシャーロンは目を閉じた。長身の男が威風堂々とその場に佇む姿は哀愁と迫力がある。 猫の鳴き声がした。
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