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サウシャーロンは日本人とドイツ人のハーフだった。彫りの深い顔立ちにいつも微笑みをたたえた慈悲深い男だ。彼を敬う人はこう語る。彼にできないことはないし、彼は人というより、神に近い存在だと。
サウシャーロンの手から鳩が飛び出す。何もない空間から、金貨が指に弾かれて手の甲に乗った。
「さて、金貨は表?裏?どちらかな?」
彼は訛りをほぼ消したインストネーションで子供に聞いた。
「表?」
サウシャーロンがにやりと笑う。
「何で分かったのかな?」
「その金貨、表しか出ないって兄ちゃん、言ってた」
正解はね、と彼は勿体ぶった。
「裏でした!」
金貨は確かに聖母マリアではなく蓮華の花が描かれていた。何度も金貨を当てるゲームが続く。全てサウシャーロンが勝ち続ける。
泣きそうな子供にサウシャーロンが甘い香りの花を出して、食べてみせた。途端に子供は笑い出す。
「魔術師さん、それ美味しいの?」
「君にはオススメできないなあ」
サウシャーロンが指を突き立てた。
「うちの猫がよくやるんです」
子供が面白がって騒いだ。
「猫が花を食べるなんて変だよ!」
子供の帰り際を見計らって、サウシャーロンは目を閉じた。長身の男が威風堂々とその場に佇む姿は哀愁と迫力がある。
猫の鳴き声がした。
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