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ジェットコースターに乗ると嬉々とする火李奈に対して、幹明は足をよろめかせたまま、チケット売り場の裏側にある中世のヨーロッパ風の柱にもたれかかっていた。今にも吐きそうだった。
「あんなものの何が楽しくて金払うんだ?」
火李奈が幹明の服を千切れんばかりに引っ張る。
「もう一度行きましょ、お兄様」
幹明の顔色は真っ青になった。
「死んじまうよ!」
「それがいいんじゃない。死ぬかもしれない恐怖……ゾクゾクするわ」
それに、と火李奈が幹明の様子を眺める。
「怖がるお兄様の顔、素敵」
幹明は苦笑した。
「だったら、うってつけがあるぜ」
一歩一歩、前進する。その度に少しの音さえ神経質になる材料になる。
少女の背後に張り付いているのは惨めな男だ。
幹明は足をガクガクと震わせていた。幽霊もUFOも信じていたし、それと同時にもし、出くわしたら真っ先に失神しようと計画を練っていた。気絶している間は何もしてこないだろう。ヤツらは大抵悪意を持ち合わせていない。面白半分でテリトリーを侵入しない限り、怒りに触れることはない。
青白い人形がいきなりケタケタ笑い出した。フランス人形だ。壊れている。
「あら、可愛いこと」
火李奈は平然とその人形を観察していた。
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