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悠が大声で叫んだ。遊園地の着ぐるみ達が何事かと振り返る。火李奈と同い年ぐらいの少女の手から風船が離れた。
「これから、メチャクチャ面白いショーの始まりだ。見て行って下さいね」
幹明は身長差と年齢差で圧倒されていた。緊張して喉が水を欲する。唾を飲み込んでも喉元でつっかえてしまい、上手く息ができなかった。
恐ろしいことに人が集まり出す。悠という男は恋人の復讐のためなら何でもするヤツなのだと認識した。
幹明は多くの好奇の目に晒され、堂々と負けても何のカッコよさもないのに気付いた。それでも、もう後戻りはできない。今、逃げ出せば、火李奈ともう会えない気がした。
「火李奈……」
幹明の視線が白いパッツンを求める。その間に悠が迫って来ていた。
「名前、聞いといてやろう」
「宮葉幹明」
悠が自分を指すジェスチャーをする。
「マイネームイズユウハカタ」
完全におちょくられているなあ、と幹明はぼんやり思った。こんな人目の付く場所でボロボロにやられたら、それこそ恥だ。
悠の一発目は軽かった。運動神経に任せて顔を背けていたからまともに当たっていない。
観客達は大喜びした。生で殴り合いの喧嘩を見るのは初めての人が多い。それは映画やドラマの世界だ。
人盛りが野次を飛ばし始めていた。
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