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「あのチビ、いい度胸してんじゃねえか」
「え?これただのイジメじゃない?やだ~」
「どっちが勝つか賭けんか?」
「敢えてチビかな……」
幹明の頭の中で言葉が渦巻く。四方八方、人に囲まれて恐怖心が頭をもたげた。
火李奈はどこだ?火李奈……。
「何よそ見してんだよ?宮葉君」
博多悠が、本気で幹明の鳩尾を狙った。
幹明の口から無様な声が漏れる。蛙を潰したような声だ。
悠は手加減しなかった。
何度も殴り蹴りを繰り返し、観客から賞賛の言葉を授かる。
幹明は軋む体で呻いた。
「火李奈……」
一瞬だけ白いパッツンが青いフードの上に担がれているのが見えた。
「火李奈!!」
幹明は青ローブに向かって手を伸ばす。青ローブは群衆に溶け込み見えなくなる。
「火李奈!!!待て!火李奈!!」
悠にまた鳩尾を殴られ、息が止まる。幹明は絶望と共に火李奈が連れ去られた方向に向かって倒れた。
火李奈が誘拐された。
俺が1人では生きていけない証明になるだろう。
幹明は自嘲しながら、気絶した。悠は鍛えているのか幹明が気絶するまでそう時間を取らなかった。
幹明は暗闇の中で何度も愛おしい人の名前を呼んだ。もう帰って来ないだろう。あの少女が少女であるための何かが奪われるのが自分でもよく分かっていた。
一方的な喧嘩が終わると野次馬も悠も恵も笑いながら各々の場所に帰って行った。
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