第1章

7/38
前へ
/82ページ
次へ
門はドラキュラ城の人間串刺しの槍のように先端を尖らせ、血に飢えているかのようだった。丸い入り口からは芳しい肉汁の匂いが浸み出していた。幹明は自分がほとんど何も食べずに辛うじて生きているのに気付いた。 「何の匂い?美味そう…」 幸世は幹明をチラリと見、少し考え込む様子を見せてから、門の鍵をどこからか取り出した。 「火李奈様、お兄様をお連れしました」 門がギシギシ軋みながら開いていく。丁重な面持ちで幸世はその間、ずっと頭を下げていた。その後ろで隠れていた幹明は、門の中の建物に愕然とした。 「城じゃねえか!」 幸世が幹明に厳しい視線を投げかけたが、幹明には通じなかった。 2人の前には霧に包まれた城のような館が慄然と姿を現していた。屋根は白く、ステンレスガラスには狂気染みた焼かれる人々の絵が残酷にも美しく焼き付けられている。窓はほとんどなく黒いカーテンが日光を遮断していた。 食堂は左のホールだ。そこも白い屋根と黒いカーテンには変わりが無かったが、甘い肉汁の匂いが漂ってき、食欲をそそった。 幹明は幸世の冷たい怒りの声を無視し、食堂へ走る。そこで小柄な身をドアに叩きつけ、不躾に侵入した。 食堂で食事をしている少女を幹明は呆気に取られて、見つめるしかなかった。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加