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少女がただの人間ではないことは鈍感な幹明にも直ぐに分かった。まだ小学校に入り立てでもおかしくない程、幼く見える。それでも黄金の瞳は何かを見据えているようで実は空虚だけを見つめ、年齢相応の無知な愛らしさを微塵も感じ取らせなかった。
「お兄様」
白いパッツンのオカッパが春の風に微かになびくように、サラサラと揺れる。幹明の心臓がドクリと脈打つ。
少女の前に5人分はありそうなローストビーフが巨大な皿の上で食されるのを待っていた。皿はとても高価そうなものだ。質屋に出すと30万はするだろう。
少女の唇から少し赤らんだ肉汁が溢れ出し、ナプキンに滴る。少女はゾッとするような笑みをたたえ、ゴクリと肉を飲み込んだ。それを卑猥に思った幹明は素早く顔を背けた。顔面が紅色に染まるのも時間の問題だと思った。
「お兄様、私はてっきり幸世さんとお兄様はあの霧でもう26分は遅れて来られると思い、悪食を楽しんでいたところですのよ」
少女はそれもまた高価そうな椅子から立ち上がり、白いドレスの裾を持ち上げて、幹明にゆっくりとお辞儀をした。優雅な中世のヨーロッパの貴族の娘とそう違わない程、見事に決まった姿に、幹明は狼狽した。
天使のような声だ。人形のような子だ。
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