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第1章
「南の貴族には富を。北の貴族には幸せを。東の貴族には子宝を。西の貴族には呪いを」
その言葉通り南の貴族は大陸中の大金持ちになり、北の貴族は幸せに暮らしていた。
東の貴族は子供が沢山出来て王族とより深く繋がるようになった。
そして、西の貴族には呪いがかけられた。
左右違う瞳、身体を覆う薔薇の痣。
それが、呪いの刻印だった――
※
呪われた貴族。そう街人から囁かれるシリユス家。
呪いは一族を蝕んでいく。
長女のレイラは呪われなかった。彼女は呪いをとこうと呪術師になろうとリンカリア学園に通っている。
兄レンは呪いの刻印がほぼ身体中を覆い、毒を送り込まれ三年前から床に臥せていた。
末っ子のアルトは未だ頬に刻印があるが、そのうち全身を覆うだろう。
今日もアルトは食材を買いに森の中の屋敷から街に来ていた。
「おばちゃん。このりんごを……」
「あんたに売るもんはないよ。よそへ行きな。よそへ」
猫をあしらうかのようにシッシッと片手を振られアルトは渋々その場を離れた。
「この瞳と痣がいけないのか?」
ぽつり呟きながら様々な露店を尋ねる。
しかし、門前払いされ一時間ほどかけて一かけらのパンを手に入れた。
アルトは大事に抱え帰路を辿る。
薄暗い森の中を進み、少し大きな家にたどり着く。
街から追い出されたシリユス家の家だ。
アルトは中に入り兄の部屋に向かう。
コンコンとドアをノックして中に入る。
「兄さん、食べ物買ってきたよ」
大事に紙に包んだ一かけらのパンを兄に差し出した。しかし、レンは「いらない」と言う。
「どうしてだ?」
弟の言葉にレンは暫し考えながら言葉を紡ぐ。
「お腹、空いてないんだ。だから、アルトが食べな」
嘘は言っていなかった。
身体に送り込まれる毒のせいで空腹を感じなくなった。否、例え空腹を感じていても弟にあげるだろう。
18だというのに満足に食事が出来ず成長が止まってしまっているからだ。
アルトは身長130ぐらい。歳を考えると可笑しな身長だ。
体重もきっと少ない。
もし、自分が動けるなら働いて彼に沢山食事を摂らせたい。
だけど、貴族は働けない。領民からの税金が収入源だからだ。
だが、シリユス家は別だった。
もう断絶してもおかしくはないから、領民は税金を支払わない。領民が納めるべき税金は全て教会の物になっていた。
アルトが働ければ食事は満足に摂れる。
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