とある恋の始まり方

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 小さくて、狭くて、ややレトロで。 そこのカウンターの右端に彼女は座る。 その場所に誰か別の人が座っていたとしたら待つ。 彼女のルールでもあるのか、もう何度目かのそれの断りを聞いた僕は「では、こちらでお待ちください」と言う。 すると彼女は決まって小さく頷くのである。 僕よりも小さな背の彼女のその小さく控えめな仕草は、とても可愛い。 なんて、そんな想いは決して口にはしないのだけれど。  僕はこの小さくて、狭くて、ややレトロな料理専門店で働いている。 もう一年以上になるか。 その二ヶ月目の接客にもこ慣れてきた頃だったか、彼女がこの店に来たのは。  ガラスの引き戸がこの店の入り口だ。 その戸の向こう、外には五人くらいが並んでいる。 飯時となる時間は大体こうで、行列が絶えない。 僕達店員、そして厨房が忙しくなる時間でもあり、さらに匂いと熱が上がっていく時間でもある。 「御馳走様、美味しかったよ」と、初老の夫婦が会計を済ませたので「ありがとうございました、お気をつけて」と、僕が言うと笑顔で店を出ていった。
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