14人が本棚に入れています
本棚に追加
小さくて、狭くて、ややレトロで。
そこのカウンターの右端に彼女は座る。
その場所に誰か別の人が座っていたとしたら待つ。
彼女のルールでもあるのか、もう何度目かのそれの断りを聞いた僕は「では、こちらでお待ちください」と言う。
すると彼女は決まって小さく頷くのである。
僕よりも小さな背の彼女のその小さく控えめな仕草は、とても可愛い。
なんて、そんな想いは決して口にはしないのだけれど。
僕はこの小さくて、狭くて、ややレトロな料理専門店で働いている。
もう一年以上になるか。
その二ヶ月目の接客にもこ慣れてきた頃だったか、彼女がこの店に来たのは。
ガラスの引き戸がこの店の入り口だ。
その戸の向こう、外には五人くらいが並んでいる。
飯時となる時間は大体こうで、行列が絶えない。
僕達店員、そして厨房が忙しくなる時間でもあり、さらに匂いと熱が上がっていく時間でもある。
「御馳走様、美味しかったよ」と、初老の夫婦が会計を済ませたので「ありがとうございました、お気をつけて」と、僕が言うと笑顔で店を出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!