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その奥さんが座っていた場所は彼女の定位置。
ここが空いたとなれば、と僕は素早く席を綺麗に片づける。
「お待たせしました。どうぞ」と、僕が言うと、彼女はまた小さく頷き、バッグを胸に抱えたまま丸椅子に座った。
そしてお品書き、カウンターテーブルに置いた小さなメニュー表を見る事なく、僕を見上げる。
上目遣い的なその目は小動物の何かか。
少々の羞恥が僕の視線を一度反らさせる。
とりあえずお冷を出さねば、と自然に見えるようにとグラスに水を注ぐ。
「……ヤキとスイ、ですか?」と、僕は言った。
彼女がいつも頼むメニューはこれなのだ。
と言ってもこの店のメニューは少ない。
当たっていたようで彼女は二度頷く。
僕の目を見たままで、上目遣いがより強調されたように見えた。
「それと、ライスですか?」と、僕は付け加える。
今は夜飯の時間帯だからだ。
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