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彼女が前に来た時はそうで、その事が多いと記憶していた。
けれど彼女はそれに頷かず、軽く首を横に振った。
肩にかからない程度のふわふわな焦げ茶色の髪の毛が、ふわふわ、と揺れる。
そして目をきょろきょろと左右に動かし小さなメニュー表を手に取った。
おずおず、と細い指がその文字を差す。
「――生中、ですね。ご注文は以上で?」僕がそう言うと、彼女は一呼吸置いて大きく頷いた。
珍しい。
というか、僕が注文を受ける時では初めてだ。
今日は何かあるのかな、なんて事を思いつつも僕は軽く一礼しつつ、大きな声で注文を言いながら厨房へ戻ったのだった。
厨房の中は熱い。
焼けた鉄板に立ち上る湯気がそうしているのだ。
店長も頭に黒いタオルを巻いて、お客から隠れるようにしゃがんではスポーツ飲料を口にしている。
聞けば汗を掻きすぎるためにこれが一番いいのだとか。
「あの子、また来てくれたんだな」と、そんな店長がシンクに皿を置いていた僕に言ってきた。
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