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「あ、はい。常連さんですね」僕がそう言うと、店長は意味ありげに、にたり、と口の端を上げて笑う。
思わず愛想笑いで返す僕は「何すか?」と、聞くと「あの子、お前が店にいる時に来てるわ」と言った。
「マジっすか」と、僕は眉間に皺を寄せながら、店内を見回すふりをして彼女を見やる。
スマホでもいじっているのか、前屈み気味に俯いていて顏が見えない。
凄い偶然があるものだな、と僕は、ふぅ、とため息をつく。
「ほい、ヤキ1、スイ1」と、彼女が注文した皿を店長から受け取った僕は、どくどく、と鳴る心臓と同調するように厨房を後にしたのだった。
ちょっと早歩きなのは、偶然が、ちょっと嬉しかったりしたので。
「失礼します。ヤキ、スイ、ビール、お待たせしました」と、僕の登場に彼女は少し驚きながら見上げ、スマホを片手に軽くホールドアップさせて、置きやすいようにテーブルを空けてくれた。
彼女が注文したのは焼き餃子、水餃子、そして生ビール中ジョッキ、略して生中である。
ここは餃子専門店なのだ。
他のメニューは揚げ餃子とジュースのみ。
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