第1章

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それは、雨の降りしきる夏の終わりのことだった。 いつも通り、帰宅した私は玄関のチャイムを鳴らした。 お気に入りの制服が、雨に濡れてしまうのが嫌で。 いつもさしている、大きめの傘を畳みながら。 いつものように、ドアが開いて、微笑みを浮かべた母がお帰り、と言った。 その向こうのドアからは、父の顔が覗く。 「あれ?お父さん、もう帰ってるの?」 「今日は年休を取った。当たり前だろ?だって今日は―――」 そう、あの日は、私の誕生日だった。 「莉那、今日はパーティーだ。」 「やったあ!」 私の両親は、一人娘の私の誕生日を、いつも盛大に祝う。 私がお母さんのお腹の中にいるときに、首にへその緒が巻き付いて。 死んでもおかしくない状態のときがあったみたいで。 両親は、そのとき初めて、神に祈ったらしい。 どうか、どうかこの子が、無事に生まれてきますようにって――― だからなんだ。 私が一つずつ年を重ねる度に、こんなにも喜んでくれるのは。 「ほら、早く入りなさい。」 「はーい。」 まさか、それが最後の会話になるなんて、思ってもみなかった。 まさにこれから、楽しいことが始まる予定だったのに。 あの、温かい家庭は……、二度と返らない。
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