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夕焼けに染まった景色は穏やかで、あたたかい。
変わらず私を慰めてくれる。
「……っ」
バイクにもたれながら綺麗な夕陽と静かな海を見つめて、幾つもこぼれる涙を指で拭う。
いつも一緒に夕陽を眺めてた場所に、今私は一人。
彼と喧嘩別れしたばかりだった。
いつか落ち着いてこの日を振り返ったら、多分すごく些細に思えそうなことで。
「どうしたの?」
突然優しい声に話し掛けられて、びっくりして振り向いた。
体にぴったりとしたジョギングウェアを着た男の人が立っている。見た目は三、四十代くらい。
割と……顔もいい。
戸惑いながら少し事情を話すと、男の人はあの別荘に住んでいるんだと言って、道を挟んだ場所にある向かいの家を指差した。
そこにシンプルモダンな白い建物が出来る前から、私と彼はここで海を見ながらいっぱい話をした。
二人のこととか、将来のこととか……初めてのキスも、ここで。
最後のキスはいつだったかな。
今は……思い出せない。
むしろ、彼のことなんか忘れてしまいたい。
「よかったら、愚痴って憂さ晴らして行きなよ。紅茶くらいなら出せるから」
爽やかに私を誘う彼の左薬指には、銀色の指輪が光っている。
……ふらふらと、ついて行った。
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