『alone again』

2/4
前へ
/4ページ
次へ
 夕焼けに染まった景色は穏やかで、あたたかい。  変わらず私を慰めてくれる。 「……っ」  バイクにもたれながら綺麗な夕陽と静かな海を見つめて、幾つもこぼれる涙を指で拭う。  いつも一緒に夕陽を眺めてた場所に、今私は一人。  彼と喧嘩別れしたばかりだった。  いつか落ち着いてこの日を振り返ったら、多分すごく些細に思えそうなことで。 「どうしたの?」  突然優しい声に話し掛けられて、びっくりして振り向いた。  体にぴったりとしたジョギングウェアを着た男の人が立っている。見た目は三、四十代くらい。  割と……顔もいい。  戸惑いながら少し事情を話すと、男の人はあの別荘に住んでいるんだと言って、道を挟んだ場所にある向かいの家を指差した。  そこにシンプルモダンな白い建物が出来る前から、私と彼はここで海を見ながらいっぱい話をした。  二人のこととか、将来のこととか……初めてのキスも、ここで。  最後のキスはいつだったかな。  今は……思い出せない。  むしろ、彼のことなんか忘れてしまいたい。 「よかったら、愚痴って憂さ晴らして行きなよ。紅茶くらいなら出せるから」  爽やかに私を誘う彼の左薬指には、銀色の指輪が光っている。  ……ふらふらと、ついて行った。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加