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別荘に彼の家族はいなかった。一人で休暇に来ているという。
リビングで美味しい紅茶を飲みながら、やるせなさと愚痴を延々語る。
男の人は向かいに座って私を見つめ、ずっと話を聞いてくれていた。
けど彼の体と声はいつしか近くなって、私の体を包み、耳を撫で。
「慰めて、あげようか」
「――」
私だって子供じゃない。
憂さ晴らしなんだって、割り切って――
両肩を包んだ手が下りていく。
息をひそめて、私はなすがままになった。
窓際に据えられた白い長椅子の上で横になったまま、気怠く外を眺めた。
大きなガラス張りの家からは、辺りの景色がよく見える。
太陽も沈みかけた夕焼けの海は、まだ穏やか。
さっき泣いてたあの場所で、彼と一緒にいつも見ていた。
茜色の……
「ここからの眺めが好きなんだ。君も?」
「……はい」
ことが済んだばかりなのに、髪をかき上げられただけで鳥肌が立つ。
首筋に唇を感じて声を出してしまった。
この人は私と遊ぶだけ。
私もそうなんだから。
今はもう、一人なんだから――。
彼は私に唇を重ねて立ち上がると何処かへ行った。
悪い、ひと……。
何気なく窓に顔を向けたその時、防潮堤の前にバイクが停まるのが見えた。
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