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信じられなかった。
道を過ぎる車のライトに照らされたのは見慣れたヘルメットと――彼のバイク。
停めたままの私のバイクに手を掛けて、きょろきょろと辺りを見回したり堤防の下を覗きこんだり。
彼は、私を捜していた。
――ここだよ、ここにいるよ。
やがて帰って来た人影はだらりとバイクにもたれて煙草に火をつけ、ぼんやりと海を見ながら佇んでいる。
何でもっと早く来てくれなかったんだろうという思いで、胸が苦しい。
もう一度話をしたら、戻れるかもしれない。
でももし彼がこっちを見上げて、今の私の姿を見たら。
寒気のする体を起こした。
待ってて。
やっぱりまだ、あなたを忘れたくない。
拾い上げた下着をつけていると、急に部屋と外が明るくなった。
「!」
照明を点けて戻って来た彼に肩を掴まれ、冷たい窓に勢いよく押しつけられる。
「ひょっとしてあれ、君の男?」
「……!」
黙って彼を退けようとしても、脚を膝で割る体は動かない。顎を捉えられて強引にキスされた。
「僕としてるとこ、見せてやろうよ」
「! ……やめ……!」
「まだ君が好きなら殴り込みに来る筈だよ。確かめないの?」
薄く笑う顔を睨んで肩を叩き、体をよじって叫んでも、彼は私を離さない。
悔しくてぼんやりと視界が滲んだ。
「見てるよ」
「!」
彼がこの家を見ている。
目を上げればそこに私はいる。
あなたの前に、こんな姿で。
離して、お願い――……!
辱しめという名のキスと息遣いは荒々しくなっていく。
堪えきれなくて声を上げた時、突然彼が私の顔を外に向けた。
「……あ……」
外灯が照らす、窓の外。
彼の強張った顔が、私を見ていた。
了
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