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茜は真っ直ぐ玄関へ進み、力一杯、玄関戸を開けた。
ジトジトした嫌な空気が纏わりつく。
(こんなところに住めるの?)
見回すと、土間の上がり口に履きくたびれた女物の赤いサンダルと、見覚えのある男物の革靴が揃えてあった。
怒りに満ちた感情が込み上げる。
しかし、
『ごめんください。麻生と申します。
こちらに主人がお邪魔しているそうで。
迎えに参りました』
ズカズカと乗り込んで行きたい気持ちを抑え、茜は極力、穏やかに声をかけた。
だが、
……
室内からは何の応答もなかった。
気配は感じるというのに。
誰かがいる、息を潜めている、そういう気配が。
居留守を使うつもり?
そう直感した茜は、
『いらっしゃるんでしょう?
上がらせていただきますね』
そう言って土間で靴を脱ぎ、入り口すぐの座敷に上がると、開け放たれた障子戸の向こうに囲炉裏を見つけた。
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