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2011年3月。
オーストラリア、クイーンズランド州、グレートバリアリーフに浮かぶ島。
「ルイ。仕事だそうだ」
ウィリアム=カールがタブレットコンピューターを差し出した。
「えぇ?データは昨日送っただろ?」
『昨日は昨日!
今日は今日だ!』
「わ!なんだ?」
ウィリアムのもう片方の手には携帯電話が握られていた。
「驚かすなよ、マイク(マイケル=フォークナー)」
『ほ~、声だけで俺だとわかったか。
忘れられてなくて良かったよ』
「よく言うよ」
『ははははは。
そろそろ人恋しくなったんじゃないか?
海ばっかじゃ飽きるだろ?』
「飽きはしないよ。
毎日、時間ごとに表情が変わるんだ。
沈みたくなるよ」
『お…おい!ルイ!』
「なんてね。ジョークだよ」
『ジョークにしちゃキツ過ぎる!』
「ごめん、ごめん。悪かったよ。
…て言うかさ。
なんでこう毎日仕事を送ってくるわけ?」
『そりゃ、需要があるからに決まってるだろうが』
「需要って…。
まだ俺は必要とされてるわけ?」
『おいおい。
その歳で隠居するつもりか?』
「……」
『悪かった、ルイ。
茶化すつもりはなかったんだが…』
「いや…。
そういう意味じゃないよ。
ただ…」
『ただ?』
「大切なモノを、俺がこの手で追い詰めて、挙句、壊しちまったわけだからさ…」
『それは違うと思うぞ』
「違う?」
『あぁ。彼女は救われたんだ』
「救われた?
親父さんの聖書にでも書いてある?」
『いや。これは俺の聖書に書いてある』
「マイクの聖書?」
『そう。
ようやく彼女は解き放たれたんだ。
苦しみも悲しみももう残ってはいない。
残っているとすれば、愛だけだ』
「愛だけ…」
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