9 Baby Blue(限りなく優しい色)

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2011年3月。 オーストラリア、クイーンズランド州、グレートバリアリーフに浮かぶ島。 「ルイ。仕事だそうだ」 ウィリアム=カールがタブレットコンピューターを差し出した。 「えぇ?データは昨日送っただろ?」 『昨日は昨日! 今日は今日だ!』 「わ!なんだ?」 ウィリアムのもう片方の手には携帯電話が握られていた。 「驚かすなよ、マイク(マイケル=フォークナー)」 『ほ~、声だけで俺だとわかったか。 忘れられてなくて良かったよ』 「よく言うよ」 『ははははは。 そろそろ人恋しくなったんじゃないか? 海ばっかじゃ飽きるだろ?』 「飽きはしないよ。 毎日、時間ごとに表情が変わるんだ。 沈みたくなるよ」 『お…おい!ルイ!』 「なんてね。ジョークだよ」 『ジョークにしちゃキツ過ぎる!』 「ごめん、ごめん。悪かったよ。 …て言うかさ。 なんでこう毎日仕事を送ってくるわけ?」 『そりゃ、需要があるからに決まってるだろうが』 「需要って…。 まだ俺は必要とされてるわけ?」 『おいおい。 その歳で隠居するつもりか?』 「……」 『悪かった、ルイ。 茶化すつもりはなかったんだが…』 「いや…。 そういう意味じゃないよ。 ただ…」 『ただ?』 「大切なモノを、俺がこの手で追い詰めて、挙句、壊しちまったわけだからさ…」 『それは違うと思うぞ』 「違う?」 『あぁ。彼女は救われたんだ』 「救われた? 親父さんの聖書にでも書いてある?」 『いや。これは俺の聖書に書いてある』 「マイクの聖書?」 『そう。 ようやく彼女は解き放たれたんだ。 苦しみも悲しみももう残ってはいない。 残っているとすれば、愛だけだ』 「愛だけ…」
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