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夕飯時のせいか店内は満席
カップルや友達同士でどのテーブルもみんな楽しそうに食事をしている
そんな中私達のテーブルだけがシーンと静まり返っている……
「いきなり訳も聞かずに別れてくれ……って、そんなのないよ……
理由があるならちゃんと教えてよ」
私は唇をぎゅっと噛み締めて、真っ直ぐに賢人を見つめた
「…………ごめん花音
そうだよな、いきなり訳も聞かずに別れてくれはないよな……ごめん」
賢人は思い詰めた様に自分の手をぎゅっと握りしめて小さな溜め息を漏らす
「俺、結婚するんだ」
「………え?
けっこん……?」
賢人の話す言葉が理解できない
まるで聞きたくないとばかりに脳が拒絶して何も頭に入ってこない
「……誰と結婚するの……?」
ようやく絞り出した声は自分でも驚く程に抑揚のない冷たい声
「…………花音の同期の松島綾……」
「………………綾?」
松島綾は私の同期で今は総務課に配属されてる、おとなしくて控えめでおっとりしていて、お嫁さんにしたい女の子って感じの子だ
特別仲がいいって訳じゃないが、でも同期で飲みに行く時とかはいつも一緒だし、よく話す程には仲良しだったと思う……
賢人との事も応援してくれていた……はずなのに、どうして……?
何が何だかわからなくなり、賢人をただ見つめると、困った様に力なく笑いポツリポツリと語りだした
「俺があっちにいってすぐに綾……松島から告白されたんだ
もちろん断ったよ、俺が好きなのは花音だけだし、結婚の約束もしてるからって……その時はわかったって引き下がってくれたんだ
でも半年前にいきなり訪ねてきて……」
目の前で申し訳なさそうに話す賢人は、私の知ってる明るくて頼りがいのあるしっかり者の賢人とはまるで別人のようだ
この人は本当に賢人なの……?
もしかして久しぶりに会うから、お互い顔を忘れて相手を間違えてるんじゃないの?
本当の賢人はどっか別の場所に……
「………ん」
「………のん」
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