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よし、行こう!
心の中でそう呟くと「ふぅ……」と静かに息を吐きギュッと千裕さんの手を強く握り返した
千裕さんも同じように握り返し、温かな眼差しで私を見つめ返す
「大丈夫、俺がいるんだから心配するな
なるようになるから」
そう言ってクシャっと笑う
「うん……」
千裕さんが言うと本当にそうなる気がするから不思議だ
ちょっと引き攣ってはいたけどとりあえず笑顔を返すと、目を瞑りスーッと息を深く吸い込み一歩を踏み出した
「ここよ、入るわね~」
あの人の病室の前に到着したらしい
おばちゃんは敢えてなのか、凄く明るく軽い雰囲気でドアに手をかけるとノックをし、返事が来る前にガラッと開けた
「木村さんこんばんは~
おかげんはどうかしら?」
そう言いながらひとり病室の中に入って行った
ふと入口のネームプレートに目をやると、どうやら四人部屋らしいが書いてある名前は『木村龍太様』と、ひとりだけだった
あ……そうだった、こんな名前だった
母が亡くなってからは、余程の重要性がない限り親のサインがいる書類は勝手に自分で書いて出してたけど、その時に龍の字が難しくて苦労したんだっけ……
なんて思い出してたらいつの間にか部屋に入っていたりっちゃんに「花音」と名前を呼ばれ我に返る
ドキドキッと心臓が一際大きな音を立てて脈を打ち始める
怖い……でももう後には退けない
スーッともう一度大きく息を吐くと、目を瞑りドアの内側に足を踏み入れた
「し、失礼します……」
ボソッと呟き震える足に力を入れ必死で一歩ずつ前へ出す
ドアの内側に身体が全部入ると、目の前に真っ白な空間が現れた
そしてその中でベッドに横たわる人影が視野に飛び込んできた
「……え?………か、のん……?」
初めて聞く弱々しく儚げな声……
一瞬誰……?と思うほど聞き覚えのない声にビクッと肩が跳ねその場で立ち止まる
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