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聞こえてきたのは酷く弱々しく儚げな声だった……
一瞬誰……?と思うほど聞き覚えのない声にビクッと肩が跳ねその場で立ち止まる
……が、すぐに後ろから千裕さんの温かな手で背中をそっと押された
「……こ、こんばんは……」
やだ……本当にこんばんはとか言っちゃったよ
もう、何よこれ、緊張が尋常じゃないんですけど
声は震えて上ずったあげく、それ以上先の言葉が紡げない
完全にタイミングを逃してしまい全く微動だに出来ない
ただひたすら病院独特の白いベッドに焦点を合わせ眺めているだけ、頭の中はもう真っ白だ
……やっぱり来るんじゃなかった
そんなヘタレな考えにまで及んでしまうくらい、今の私はダメダメの情けないヤツだ
痛い程に感じる視線に居たたまれずにグッと唇を噛み締めていると
「……本当に花音なのか……?」
もう一度弱々しい声が聞こえてきた
……本当も嘘もないよ
私は正真正銘木村花音ですから……
顔を見ずにコクンと頷く
「……そうか
………そうか、花音なのか……
大きくなったな…………」
……どうしてそんな風に言うの?
何でそんな風に私の名前を呼べるの?
あなたが私達に何をしたのか覚えてないなんて言わないでよ
あなたがどんなに酷い夫だったか、薄情な父親だったか……忘れたなんて言わせないよ
私はあなたを今日までずっと憎んで来たんだから
今日だって文句のひとつでも言ってやろうと思って来たんだから……
って、何で……?
何で私泣いてるの?
この人のせいでお母さんはどんなに寂しくて惨めで悔しい思いをしたのか
この人のせいで私はあの家でずっと孤独に耐えてきたのか……
憎くて憎くて大嫌いだった
お母さんじゃなくてアイツが死ねば良かったんだ
アイツもあの女も一番惨い死に方で今すぐ死んで欲しい……ってそう何度も思ったし願った
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