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もう何も考えらない
自分の心が迷子になってしまったみたい……
どこにいるのか、どこに行けばいいのかわからない
千裕さん助けて……
唇を噛み締めぎゅと目を瞑り心の中で大きな声で叫んだその時
「花音……」
顔を覗き込んで来た千裕さんが耳元で優しく囁いた
その声にハッと我に返ると、私は思い出したかの様に息を深く吸い込んだ
「千裕さん……」
カラカラに乾いた喉からは掠れた声しか出てこない
その酷く掠れた声でようやく彼の名を呼んだ
名前を呼んだだけなのに……
たったそれだけで不思議と強ばっていた力が抜け、胸がスッと楽になる
「千裕さん……私……」
ここに何しに来たのか、自分はどうしたいのか、何を言えばいいのかわからない
ただもう千裕さんの名前を呼んでいないと不安で仕方がない
ここに立っていることさえ出来なくなってしまいそうで怖い
心細くなりすがる様な目で見つめてしまう
こんなのダメなのに
千裕さんに頼らずに自分で何とかしなきゃダメなのに……
またしても千裕さんに助けを求めてしまうしか出来ない自分にとことん嫌気がさす
だけど千裕さんはそんな情けない私を見つめると、いつもの様にフッと柔らかな眼差しで微笑んでくれる
「なぁ花音、俺を紹介するって約束忘れてないか?」
この場にそぐわない、少しおどけた様なその声は、真っ白だった私の頭の中にひとつふたつと淡い色をつけていく
「……え?しょ、紹介……?」
「そ、だってほら、紹介してくれないと俺不審者扱いだって言っただろ」
「あ……」
「思い出した?」
……フッ……もう千裕さんってばこんな時に……
本気か冗談かわからない
だけど心の底から安心できる笑顔で、私をいとも簡単に深く暗い場所から掬い上げてくれる
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