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「……はい、そうでしたね……
すいません、すっかり忘れてました」
「頼むよ~既にさっきからお父さんにチラチラ見られてるからさ……」
そう言ってベッドの上のあの人をチラッと横目で見る
つられて私も視線を向けると……
あ、本当だ……
あの人が千裕さんをチラチラと気にしている様子が見えた
「わ、わかりました
とりあえず先に紹介しちゃいます」
・・・だけどそうは言ったものの最初の一言が出てこない
不思議とさっきまでのドロドロした感情は少し薄れてきたのに、何故か素直に顔を見ることが出来ない
生まれて初めて味わう何とも形容し難い感情に戸惑うばかり
怒りや憎しみでいっぱいなはずなのに、悲しくて切なくて……
こみ上げてくる感情に気持ちがついていけない
もう……これじゃちっとも先に進めないよ
ふぅ……
もう一度深く息を吸い込みゆっくり吐き出すと、千裕さんが再び優しい声で囁いた
「花音、大丈夫
花音は花音のままでいいんだよ
言いたいことがあるなら言えばいい、尻なら俺がいくらでも拭ってやる」
「……え?」
「紹介ついでに文句の一つくらい言ってやれば?
親父さんだってそうしてもらった方が楽だと思うぞ」
おばさんとりっちゃんが見守る中、2人だけで交わされる内緒話
すると見かねたのかおばちゃんが明るい声で私に話しかけてきた
「ねぇ花音ちゃん、まず先にそちらのナイスガイを紹介してあげなさいよ
クスッ……ほら、お父さんさっきから気になって仕方ないみたいだからさ~」
そう言って笑うと、パッと病室内の雰囲気が変わり明るく、そして空気が軽くなって行く感じがした
「え、あ……いや……俺は別に……」
いきなり自分が話題に出されるとは思ってなかったのか、ハッと驚いた顔してあの人が気まずそうに視線を泳がしていた
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