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言葉にできない想いが涙となって頬を伝い落ちる
突然の涙に千裕さんはちょっと困った様に笑ってみせると身体ごと私の方へと向いてくれる
そして両肩に手を置くと少し屈んで泣いてる私の顔を覗き込んだ
「泣き虫」
そう小声で囁きクスッと小さく笑う
千裕さんの長い指が頬に当てられそっと涙を拭ってくれると、溢れる優しさに胸がキュンと切なくなる
今すぐ千裕さんの胸に飛び込んでいきたい、今すぐギュッと抱きしめて欲しい……
「花音……」
そんな想いを知ってか知らずか、ひときわ優しい顔して切なげに私の名を呼んだ
「俺は花音とじゃなきゃ幸せになれないよ
花音も俺じゃなきゃダメだろ?
いや、俺以外の奴との未来なんて認めない
俺には花音が必要で、花音には俺が必要
同じ目線でこれから先もずっと共に生きていきたい、花音とならそれが出来る」
私に向けられた確信を持った強い言葉と迷いのない真っ直ぐで綺麗な瞳……
その瞳に吸い込まれる様に見つめる私に千裕さんの唇が何かを囁いた
「………………」
みんなに背を向け私だけを見つめると、声に出さずに唇の動きだけで言葉が伝えられる
ゆっくりと、一文字ずつ、私にわかるように……
そして最後の一文字を読み取った私は、たった今囁かれた言葉に信じられない思いで千裕さんを見上げた
何も言わずただ呆然と見つめていると、少し困った様に小さく笑い
「……返事は?」
と自信たっぷりに聞いてくる
「……はい」
その返事に千裕さんが目を細めると、唇が柔らかく弧を描き照れくさそうに微笑んだ
そして再び真剣な面持ちであの人に向き直った
「花音さんを……娘さんを俺に下さい」
真っ直ぐに視線を向け姿勢を正すと、ハッキリとそう言い深々と頭を下げた
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