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とりあえず、変なやつとだけは思われなくて済んだのかもしれない。
「じゃあ、夕飯までどうしようか? その格好だから外は出歩けないし……ゲームでもする? 確か納戸にファミコンがあったはず……っ!?」
そう言って立ち上がろうとしたとき、地面が軋んでぐらりと大きく揺れた。僕はバランスを崩して倒れ込み、机から落ちたと思われる洗面器が、バチャッと背中に水を掛けたのが分かった。
最悪だ。
「いった……佐々さん、大丈夫だっ……た」
身体を起こすと、目の前に顔があった。
僕は佐々さんの上に倒れ込んでいたのだ。
「大丈夫だった!? 今すごい地震が……!!?」
僕らを心配して駆けつけてきたらしい小夜さんが、まるで十年来連れ添った夫に、自分は実は女だったのだとでも言われたみたいな顔をしていた。
そんな顔をするのも当たり前である。
だって今の僕はびしょ濡れで、あられもない姿をした友達(滅多に来ない)の上に覆いかぶさっていて、しかもまだ明るいにも関わらず雨戸を閉めているのだから。
見た目的には弁解の余地なし。
もちろん、やましいことなど何もないが。
「……な、何してるの? どうしたの? その子はお友達じゃないの? もしかして、かなちゃんはその子と……!」
すっかり動揺して事実無根なことをぽんぽん言う小夜さんに、僕は大いに焦りつつも誤解を解こうと試みた。
「ちっ、違うよ!! これはその……ちょっとした事故で……」
「もういい……もういいわ、かなちゃん。よく分かったわ。でもどうか同じ過ちだけは犯さないで……」
「話聞けよ!! だからそんなんじゃないって! ほら、佐々さんも何か……佐々さん!? ちょっと!」
助けを求める僕をよそに、佐々さんは床に突っ伏して完全に無関係モードを貫いていた。
いや、無関係じゃねえぞ!?
「奥様と旦那様には言わないでおいてあげるから、帰ってくる前に全部終わらしておくのよ? じゃあ、私は買い物に行ってくるから二人でごゆっくり……」
「ちょ、本当にそんなんじゃないから! いらない気遣いはやめろ! あと下衆な勘繰りも本当にやめろ!!」
僕はこの後たった一人で、小夜さんに無理矢理納得してもらうまで延々と弁解を続けることになった。
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