第1章

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 家に着くと、家政婦の小夜さんがびっくりしたように迎えてくれた。 「かなちゃんが友達を連れてくるなんて……良かったわ、友達がいたのね」  単純な言葉ながら、正確に的を射てざくっと突き刺さる。  余計なお世話だ。 「失礼な……いるよ友だちくらい。ていうかこの子、前に連れてきたの覚えてないの?」 「え? んー……あら、いつだったかひどい土砂降りの日に連れてきた子じゃない。そんな何回も連れてくるなんて、随分仲がいいのねえ。ふふ、お茶を持っていくわね」  小夜さん嬉しそうだな……。あの様子だと本当に僕に友達がいないと思っていたのかもしれない。 「かなちゃん、なんて呼ばれてるんですね」  運ばれてきたお茶を飲みながら、彼女はにやりと笑って言った。僕はお茶を吹いて、綺麗な虹を作り上げた。  うるさいうるさい。 「小さい頃からいるから、そのまんまなんだよ」 「可愛いですね。私も呼んでいいですか?」 「だめ」  調子に乗んな。 「そんなことより、ワンピース取りに来たんでしょ。ほら」  場違いな空気を醸し出して仕方のなかった物をタンスから取り出して、ぐいと押し付ける。  彼女はそれを広げ、あ、と声を上げた。 「洗濯してくださったんですね。わざわざすみませんでした」 「いや、他の服と一緒に洗濯に出しちゃっただけだから、別にいいよ」  障子を開けて外を見ると底の黒い雨雲がもくもくと広がり、今にも雨が降り出しそうな陽気になっていた。  早めに雨戸を閉めておくか。  そう思ってガラガラと雨戸を閉めつつ、気になることは彼女の顔に貼られた絆創膏である。  前に手当てをしたとき、彼女の顔の傷のほとんどは殴打されたことによってついたもののように思われた。身体の傷も脛の前部全体など、あまり事故によってついたとは考えられない。  そして今の絆創膏の下はどうなのだろう。  正直、僕は初めて会ったときから虐待を疑っていた。だが虐待の場合、こんな目に付きやすいところにわざわざ殴打の跡を付けるだろうか?  気になるが、なんだか踏み込んでほしくなさそうなので、卑しい下種の勘繰りはやめておく。  人には知られたくないことの一つや二つ、誰にだってあるに違いない。
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