第三章 メラル

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キュクロープスはライラを捕まえようと二本の腕を伸ばす。 捕まれば一貫の終わりだろうというのはは容易に想像ができる。 だが幸い動きはミノタウロスほど速くない。 少なくともライラには捕まりそうで捕まらないギリギリのタイミングであえて避けることで、クリーチャーの神経を逆撫でさせるだけの余裕がある。 業を煮やしたキュクロープスは握り込んだ岩のような拳を突き出した。 端的に言えばただのパンチ。 だがそのただのパンチが鉄骨構造の家をバラバラに吹き飛ばす。 難なくその拳を回避していたライラに与えた心理的衝撃も似たようなものだ。 しかしそれで何かが変わるということもなかった。 それどころかむしろ今頭の中ではどうすればこの化け物に勝てるのかという計算がめぐるましく展開されている。 それはこれまで己の保身にばかり走っていたライラにとっては初めての経験であり、不思議なことにいつもよりずっと集中できているような感覚さえあった。 生きる為ではなく勝つ為に、後ろへ逃げる為ではなく前へと進む為に、ライラは走る。 稲妻のように、速く、鋭く。 ライラの拳がキュクロープスの脛を強打した。
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