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いや、そもそもその武器が通用しなかったからこのように逃げ惑っている訳で、新たな武器を取りに行っても意味はないのかもしれない。
咲が後方支援部隊の待つベースキャンプへと到着した時、そこはほとんど無人に近かった。
本来なら補給に治療に慌ただしくなるものだがと首を傾げているとその答えをくれる以外な人物が現れた。
「ようやく出番があると思って出迎えてみればお前さんか」
「ドクターか。怪我人は?」
「今のところは怪我人も死人も運ばれてきてないな。何なら武器の補充に戻ってきたのもお前さんだけだよ」
「三体同時侵入されたんだ。すぐにいつも以上に忙しくなる」
「それならいいがな。いくら私でも死んだ人間は治せん」
「死なせないさ……今度こそ」
「変わらんなお前さんは」
分かったような台詞を吐くドクター。
いや、ようなではなく彼は咲の過去を知っている。
もう出会って五年近く経つというのに咲はまだ彼の本名さえ知らない。
そんな相手に何故かポロッと溢してしまった。
後にも先にも誰にも話したことのない、咲がまだ新東京で普通の女の子として過ごしていた時代の話。
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