第三章 メラル

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強化ガラスをぶち破ってクリーチャーが侵入してくることなど。 結果から言えば咲だけが瀕死の重傷を負いながらも生き残った。 君は本当に運が良かったと医者が言っていたのを今でも覚えている。 誰が悪い訳でもない。 それでも咲は己を責めた。 もし自分が止めていれば、もし自分に皆を守れるだけの力があれば、もし、もし、もし……。 咲が壊れ始めたのはその頃からだ。 退院したその日に咲は帝山高校へ退学届けを出した。 新東京では例外なく魔装の素養を持たない人間は戦場に出られない。 新東京を離れる決意を固めるのに入院期間があれば十分すぎていた。 自暴自棄になっていたと言われれば否定はできない。 行く当ても力もないただの人間が外界へ飛び出したところで結果は見えている。 そういう意味でやはり咲は運が良かったのだろう。 しかしその経験があったからこそ今がある。 一度は粉々に砕け散ってしまった自分という存在を一から作り上げてきたのだ。 「今度こそ私が救ってみせる」 自然と出てきた言葉は過去の自分に、そして今の自分に言い聞かせているかのようだった。
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