第三章 メラル

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「そりゃ親父譲りだな。直す気もないけーーッ!?」 完全な不意打ち。 つま先立ちで精一杯体を伸ばしたライラの唇が優斗の唇をふさいでいた。 触れあっていた時間の感覚がおかしい。 一瞬だったのか、一分だったのか、唇が離れた後でも優斗には分からなかった。 「……今のはあの本の続き」 「え?あ、あぁ……ていうかその本貸してくれ」 「家に置いてあるからそれは難しいと思う」 結局ダメダメな二人だった。 特に気のきいた台詞の一つも言えない優斗は男として落第点である。 目が合う度に気まずそうに目を反らすというやり取りを繰り返す二人の初々しい時間。 しかしそれは予期せぬ形で引き裂かれた。 「うまくはいかないものだな。さすがにこれは予想もしていなかった」 突然現れた男に優斗とライラは思わず我が目を疑わずにはいられなかった。 「どう、して、あなたが……」 「どうして……か。君らしくもないな。実に良くない変化だ。以前の君ならそんな台詞は口が裂けても言わなかっただろう。それもこれも影宮君の影響という訳か」 年齢を感じさせる白髪混じりの髪にその男は生気のない蔑むような視線を向けてくる。
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