第三章 メラル

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もしあのまま暴走を許していればその先に待つのは修羅の道だっただろう。 だが今の彼女に気負いは見られない。 過去を振り返るのではなく前を見据えていた。 見えている景色の果てに待つのは結局のところ保坂への復讐なのかもしれない。 だが一歩前進したのだ。 そもそも優斗は復讐を否定したい訳ではない。 ただ復讐の虜囚となってほしくなかっただけだ。 「ところで優斗は何をやらかしたのだ?」 「少し女心を傷付けただけです、はい」 弟が女の子に背負われているのがよほどつぼにはまったのか咲はまだ肩を揺らして笑っている。 ちなみにライラはと言えば素知らぬ顔をしていた。 (こいつ見た目通り根に持つタイプだからなぁ) 「なにか言いたそうな顔ね?」 ギクリと身動ぎする優斗を見て遂に堪えきれずに咲が声を上げて笑い出した。 挙げ句には「青春しているなぁ」と少し羨ましげにそんなことを言われた気がするがそれは違うだろう。 何故ならこれが青春ならば甘酸っぱいなんて表現が使われることは絶対にありえないのだから。 7 咲が煙草の空箱を握り潰す音に、優斗は車中でさらに体を縮こまらせた。
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