第三章 メラル

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「無茶は承知の上だ。私達は個々の力量でも数でも敵に大きく劣る。この戦いに勝つにはそれぞれが実力以上の相手を打ち倒す、それこそ奇跡のような戦果なくして勝利はありえない」 「お姉さんの言うことは何も間違っていないわ。犠牲なくして勝利は得られない。クリーチャー戦とはそういうものよ」 「……分かってるよ。ただ一人の犠牲も出さない勝利なんて幻想でしかないってことぐらい。それでも俺は咲姉やライラみたいに割り切りたくないんだ。だから少しでも多くの人間が笑って喜びあっているような夢物語を現実にするために俺は足掻く。それぐらいのワガママは許してくれるだろ?」 咲はやれやれと首を振り、ライラはこれみよがしに溜め息を溢していたがそれに対して反対する素振りは見せなかった。 きっと二人だって本気で割り切っている訳ではないのだ。 ただ現実が見えているだけで、本心は優斗と同じく何一つ失いたくないというのが根底にある。 各々の想いを抱え進む車からは聳え立つ新東京の輪郭が見え始めていた。 クリーチャーに奪われた土地を取り戻せたことは過去に一度としてない。 とても小さな火だが歴史上初めて反撃の狼煙は上がろうとしていた。
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