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さよならの前に。
君が死んでしまえばいい。
そう思って生きてきた。
それは当然のことだ。
だって僕はそんなに強くない。
君の言う「ワタシ」って響きが好きだった。
だから君は死ねばいいと思った。
君とさよならするときに、いっそのことこのまま僕だけが息を止めたら、なんて馬鹿げた妄想をするくらいに。
それが友情ってやつだと知る前に。
そもそも友情って何だろうって。
親友って呼べるその彼女に、死んでしまえと言えることが友情ってやつなのか。
さよならって言葉が死ねって意味だって、君は知らないから笑うけど。
僕は真剣に君へさよならって言ったんだ。
このまま変わらないでいてくれたらいいって、身勝手だね。
そんなのは百も承知だったし、なんなら千も万も億も承知で、それでもその身勝手を許してくれるのが君ってやつだった。
カノジョって呼べる関係だったのかもしれない。
だけどこれは紛れもなく友情だったと思う。
死ねばいいのは僕の方だ。
変わらないのは僕だけでいい。
飛び降り寸前の心境みたいな僕に、それでも君は無邪気に笑う。
さよならって言葉の意味を知らないから、君は無邪気に笑う。
だいたい僕だけがこんなに悲しいのが不平等だ。
死んでしまえばいい。誰がって?
そりゃ、世界中のみんなが。
少しずつ拡がっていく、憎しみにも満たない稚拙な感情に、僕は嫌気がさして、誤魔化すために涙を流した。
僕の体重が(この湿った重み)がすぐにでも消えてしまえばいい。
それでも、僕がここで死んでしまって、君が僕のことを忘れないって保証がどこにあるだろう。
君が僕をわすれてしまったら、それは死ぬんじゃなくて、消えてしまうってことだ。
叶うなら時を止めたいと思った。
それがさよならって言葉の意味だった。
君は言った。
「ありがとう。さよなら」
そのとき、君も同じ気持ちだって知った。
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